2018年アメリカ移植学会記
2018年6月2日~6日まで米国ワシントン州シアトルで開催されたThe American Transplant Congress(アメリカ移植学会)に参加してきました。唾液で腎移植後の急性拒絶反応を診断する「Diagnosis of acute renal rejection using saliva metabolome analysis」という私の発表をすることはもちろんですが、数、質ともに移植の最先端であるアメリカの現状を勉強したいという思いで学会に参加しました。
成田空港からシアトルまでは約9時間のフライトで、思ったより近いなと感じました。空港から学会場(Washington State Convention Center)のあるダウンタウンまではリンク・ライト・レールという路面電車で約30分とアクセスは良く、何より3ドルと非常に安かったのが驚きでした。途中でイチローが在籍しているシアトル・マリナーズのホームグラウンドであるセーフコ・フィールドが見えました。
シアトルは、北はカナダに隣接する太平洋岸北西部で最大の都市です。人口は約58万人です(八王子と同じ)。スターバックスやアマゾン、コストコなど世界を代表する数々の大企業の誕生地でもあります。真偽のほどは分かりませんが、私が地元の人から聞いた話では、シアトルの人はみんなアマゾンでネットショッピングするので、街には実店舗が少ないとか、アマゾンが倉庫としてシアトルの土地をたくさん買っているので、シアトルの不動産は非常に高くなっていると言っていました。街は米国の都市としてはそれほど大きくない?ので、バスと徒歩でいろいろ散策しましたが、落ち着いた雰囲気で治安も良く非常に好感を持ちました。
学会場から数ブロック、エリオット湾に向かって行くと、正面に魚と野菜の市場であるパイク・プレース・マーケットがあります。中にはいろいろなレストランや、外観が見慣れている緑ではなく茶色のロゴのスターバックス1号店、なぜか一面に噛んだ後のガムをくっつけた壁などがあり、シアトルに行ったら必ず訪れたい場所です。旭川医大の先生方と近くのレストランで牡蠣を食べましたが、非常においしかったです。
学会は朝7時から開催されており、非常に広い学会場で興味あるテーマが同時に開催されていたため、泣く泣く聞けなかった発表もたくさんありました。私は主に腎移植、膵移植の発表を聞きました。トピックの1つは抗体関連型拒絶反応です。これは抗体を原因とする拒絶反応で、治療が困難であり、発症すると移植した臓器が廃絶してしまう可能性が高くなります。日本では治療薬が限られており、保険で認められている治療は血漿交換やステロイド、維持免疫抑制剤の増量等しかないのが現状です。しかし米国では、Belatacept(ベラタセプト)、Bortezomib(ボルテゾミブ)、High doseグロブリン投与など、日本では保険適用外や未承認薬のため使用できない治療が行われており、その有用性が発表されていました。またクロスマッチ陽性例の腎移植は日本でも近年いろいろな対策を講じて散見されていますが、米国でもグロブリン投与、Rituximab(リツキシマブ)、Thymoglobulin(サイモグロブリン)などを用いてその克服がチャレンジされていました。また他に印象に残った発表は、献腎移植でHCV(C型肝炎ウイルス)が陽性で破棄されている腎臓が40%もあるので、その有効利用を考えるべきであり、実際にHCV陽性ドナーから陰性レシピエントの腎移植では成績は良かった、サイトメガロウイルスハイリスク症例に対する対策、膵腎同時移植と生体腎移植のプロ・コン(pros and cons:良い点と悪い点)など興味ある話題がたくさんありました。
今後も自分自身の知見を深めて患者さんに還元するため海外学会へ出席し、またご報告したいと思っていますのでよろしくお願いします。
最後に今回の旅行で起こったエピソードを1つ。学会で講演を聞いているときにスマホからメール受信のお知らせが。
「Dr. Iwamoto,
Security (lost and found) at The Washington State Convention Center has your wallet. We are located at the southeast corner of Pike St. and 9th Ave., next to the Grilled Cheese Experience,.」
そうです。トイレで手を洗おうと洗面台にバッグを置いたときに財布がポロリと、そのまま気づかずにバッグだけ持って出てきてしまったのです。よく日本は財布を落としても戻ってくる良い国として紹介されていますが、シアトルでも戻ってきました。財布の中身もそのままでした。アメリカも良い国でした。