移植手術終了後はICU(集中治療室)に移動します。全身状態に問題がなければ翌日以降一般病棟に移動します。生体腎移植の場合は移植した腎臓の機能回復も早いため透析は行わないことも多いです。一方で献腎移植の場合は十分な尿が得られるまで時間がかかるため必要に応じて透析を行います。
採血・採尿検査はしばらくの間は毎日行い、腎機能チェックのほか、免疫抑制薬の血中濃度も確認しながら免疫抑制薬の調整を行います。
食事は手術翌日から再開します。術前から開始していた免疫抑制薬の内服も再開します。もともと服用していた内服薬については必要に応じて再開します。
手術後は点滴やドレーンと呼ばれるチューブ、膀胱内に留置したチューブなどが留置された状態で数日過ごしていただきます。経過に問題なければ術後3〜4日で順次取り外していきます。
腎機能が安定し、合併症なく経過された場合は術後おおよそ2〜3週間で退院となりますが、合併症の程度によってこの限りではありません。退院までにご自身が内服している免疫抑制薬(3〜4種類)について把握をしていただきます。退院後の日常生活にスムースに移れるように食事や生活面について病棟スタッフが指導を行います。
ドナーの方は手術前日に入院していただき、術後は直接一般病棟に戻ります。手術翌日から飲水や食事が再開になります。無理のない範囲で身体も動かしていただきます。経過に問題なければ概ね術後3〜5日で退院になります。手術の傷は抜糸不要の「埋没縫合」で行いますので抜糸や消毒のための通院は不要です。
退院直後 |
2週間に1度の通院 採血、採尿検査を行い、移植腎機能のチェック、免疫抑制薬の調整が主になります。 |
術後1〜2ヶ月後以降 | 体調、腎機能が安定したら1か月に1回程度の通院となります。併存症によっては内科と外科の両科で診療に当たります。 |
腎移植後おおよそ3、12ヶ月 |
移植腎生検を行います。 ※細い針を用いて移植腎から組織を採取する検査です。通常の外来採血検査の結果だけでは現れない微細な移植腎の変化をチェックします。例えば、ごく軽い拒絶反応が腎生検で判明することもあります。移植腎生検は1泊2日の入院で行います。あきらかな腎機能異常がある場合は、随時行います。 |
術後1年以内のドナーの方 |
術後1、3、6、12ヶ月で来院していただき、腎機能のチェックを行います。
検査内容は採血、採尿検査に加え、腹部超音波検査を随時行います。 |
術後1年以上経過したドナーの方 |
年1回程度の来院、腎機能のチェックを行います。
※ドナーの方が当センターへの通院が難しい遠方にお住まいの場合は、お近くの医療機関をご紹介させていただく場合もございます。 |
術後3ヶ月の間は、お刺身、生野菜などの生ものの摂取は控えていただいています。
最終的には食事内容に制限はありませんが、グレープフルーツは免疫抑制薬との相性が良くありませんので、控えてください。
お仕事や趣味、スポーツなどの再開についてご不明な点があれば外来でご相談ください。
とくに日常生活での制限などはありません。お仕事や趣味、スポーツなどの再開についてご不明な点があれば外来でご相談ください。
移植腎は急性尿細管壊死という状態に陥りやすく、術後2~3週間尿が出ないことがあります。この場合でも移植腎に血流が通っていれば、いずれ尿が出てきます。血液透析を今まで通り行いながら尿の出るのを待つことになります。※超音波検査を頻回に行います。また、核医学検査などを行うこともあります。
輸血には肝炎、エイズなどのウイルスや未知のウイルスへの感染、また移植片対宿主病などの副作用がありますが、手術中に大出血を起こした場合は、生命を維持するため、また移植腎を機能させるために輸血を行う場合があります。
移植腎と大血管の吻合部からの出血が術後も起こり、止まらない場合があります。この場合、止血のため再度手術室へ運び開腹することがあります。
尿管を膀胱に吻合するところから尿が漏れて移植腎の周囲にたまることがあります。また、リンパ液が移植腎の周囲にたまることもあります。この場合、脇腹の管を長く留置しておく場合があります。そのほか尿管を膀胱に吻合するところが狭くなり、尿が流れなくなる場合があり、この場合は再手術が必要になることがあります。
まれですが、移植後急速に移植腎機能が失われる、超急性拒絶反応がおこる場合があります。この場合、緊急に移植腎を摘出する再手術が必要になります。現在は薬が良くなり、超急性拒絶反応の発生は少なくなっています。
まれに手術の傷に細菌が感染し、化膿して手術の傷が開いてしまうことがあります。この場合、傷の治癒が遅れることがあります。また、サイトメガロウイルスといった、特殊なウイルス感染症に感染する場合があります。その際は抗ウイルス薬などの治療が必要になります。
腎移植後、どのように努力しても移植腎に血流が流れないことがあります。この場合は移植腎の機能は望めません。また、残念ですが、血流のない腎臓は感染巣となり、敗血症を引き起こす原因となります。救命のために移植腎を摘出する場合もあります。
拒絶反応は「急性拒絶反応」と「慢性拒絶反応」に分類されています。急性拒絶反応は術後1ヶ月周辺で現れることがあり腎機能の低下(クレアチニン値の上昇、尿量減少、体重増加、浮腫、移植腎の痛み)などの諸症状を伴います。一方、慢性拒絶反応は自覚症状が乏しく腎機能低下も緩徐であるため診断が難しい時もあります。いずれの拒絶反応も腎生検を施行して病理学的評価が必要です。治療はステロイドパルス、サイモグロブリンなどの薬物療法や血漿交換などがあり、これらを組み合わせながら拒絶反応の抑制を図ります。
移植した腎臓に、元の腎臓病が再発することがあります。例えばIgA腎症などは長期的には再発の可能性があります。その場合は内科と一緒に治療に当たります。腎機能低下が進んだ場合は2回目の腎移植も考慮します。
免疫抑制が効きすぎた場合、様々なウイルス感染症(サイトメガロウイルスによる間質性肺炎、腸炎、網膜炎、ヘルペスウイルスによる帯状疱疹、EBウイルスによるリンパ腫、BKウイルスによる移植腎機能障害など)が起こり、抗ウイルス薬(アシクロビル、ガンシクロビルなど)による治療や免疫抑制薬の減量を必要とする場合があります。
術前にこれらのウイルスに対する抗体の有無を調べてありますが、抗体を持っていても罹患することがあります。呼吸困難、発熱(38度以上)、咳、下痢、発疹などが起きた場合は、すぐ知らせてください。
免疫抑制薬は適正な血中濃度を保っていても、長期的に腎臓を傷害する副作用を起こすことがあります。腎機能低下を認めた場合、減量の必要が生じることがあります。
免疫抑制薬により、発がんのリスクは一般の方に比べて高くなります。万が一がんが発生し、生命に危険が及ぶ場合、免疫抑制薬を中止し、移植腎をあきらめざるを得ない場合があります。
腎移植を行うことで新たに糖尿病を発症することがあります。また、術前に糖尿病であった方は移植後糖尿病が悪化することがあり、インスリン治療の開始や増量が必要になる場合があります。
現在は腹腔鏡を用いて腎臓の摘出を行いますので、傷も小さく身体への負担は以前に比べると小さくなっています。しかし、全身麻酔で手術を行いますので、合併症の危険性が「ゼロ」ではありません。
どんな手術でもありえますが、傷口が化膿したり、出血したりする可能性はあります。感染症については抗生剤などを使いながら予防に努めます。
一つの腎臓を提供しても、残った腎臓で問題ないかを術前に充分かつ余裕を持って判断しますが、交通事故や未知の病気の発症、不摂生などが原因で腎機能が低下する可能性は残ります。仮に腎機能が低下しても早期発見して対応するためにも、ドナーの方も定期通院をお願いしています。
当センターでは、腎移植の際には以下の免疫抑制薬を用いています。
ステロイド、カルシニューリン阻害薬の中から1つ、代謝拮抗薬の中から1つを患者さんの状態に合わせて選択しますので、3種類の内服に加えて、手術当日と4日目にバシリキシマブを点滴で投与します。したがって、合計4種類の薬剤を使います。手術直後より腎機能を確認しながら徐々に免疫抑制薬の量を減量していきます。腎機能が安定している場合、約3ヶ月をめどにステロイドは中止になります。