(慢性)糸球体腎炎とは、血液から尿をろ過する腎臓の中の糸球体※という部分に持続的な炎症があり、血尿や蛋白尿を認める病態を指します。慢性糸球体腎炎は糸球体に炎症を生じる疾患の総称で、その代表がIgA腎症です。血尿や蛋白尿が持続することで次第に腎機能が低下していきます。多くの糸球体腎炎では蛋白尿が多いほど末期腎不全に至りやすいことが知られています。
※糸球体とは、血液を濾過し尿のもととなるものを作る篩(ふるい)のような構造をしている毛細血管の塊です。1つの腎臓に約100万個の糸球体があるとされていますが、最近、欧米人の約90万個に対して日本人は64万個であったとの報告があります。)
IgA腎症は日本人で最も多い慢性糸球体腎炎で、腎臓に針を刺して腎臓の組織をとる「腎生検」という検査により確定診断がなされます。
腎生検で、糸球体にIgA(免疫グロブリンA)の沈着を認めます。最近の研究で、この沈着するIgAの一部に異常(糖鎖修飾異常を持つIgAといいます)があることがわかっています。また患者さんの血液の中にもこの糖鎖異常IgAが増えていることがわかっています。病気が起こる機序としては体内になんらかの抗原が入り、その抗原に対する抗体として糖鎖異常IgAが産生されます。そして、その糖鎖異常IgAや糖鎖異常IgAとの免疫複合体が糸球体に沈着して炎症を起こすと考えられています。原因となる抗原については完全にはわかっていませんが、一部の患者さんでは、急性扁桃炎などの上気道炎を起こした時に、コーラのような色の血尿(肉眼的血尿)が認めることや腎機能が悪化することから、扁桃などの病巣感染(粘膜免疫の異常)の関与が示唆されています。この意味で扁桃摘出術+ステロイドパルス療法(扁摘+パルス療法)が根治的な治療法としてわが国では普及しており、当科でも耳鼻咽喉科・頭頸部外科の協力のもとで積極的に実施しています。扁摘+パルス療法は有効性の高い治療法で、IgA腎症が発症してから治療までの期間が短ければ短いほど効果があります。血尿を最初に指摘されてから3年以内に扁摘+パルス療法を行なうと80%以上の寛解率が期待できます。しかしながら、治療後も尿所見異常(血尿)が改善しない患者さんが一定数いらっしゃいます。そのような患者さんの中には、扁桃とは別の病巣感染のフォーカスとして上咽頭炎が最近注目されています。上咽頭炎に対しては、塩化亜鉛による上咽頭擦過治療※(Epipharyngeal Abrasive Therapy;EATイートと呼びます)が一定の効果があるとされており、当センターではその専門外来として腎と病巣感染外来を開設し、耳鼻咽喉科・頭頸部外科や近隣医療機関との協力のもとで、EATも積極的に行っております。
※上咽頭擦過治療(EAT)は、鼻咽腔の頭文字”B”を使用した「Bスポット治療」と言われているものと同じ治療です。