腎臓病コラム(ドクターコラム)

ドクターコラム

IgA腎症 ~原因と治療法について~

腎臓内科・血液浄化療法室 准教授 山田宗治

vol.1

IgA腎症とは

IgA腎症は、日本人で最も多い糸球体腎炎です。正確な人数は不明ですが、我が国の疫学調査からは約33,000人の患者さんがいると推計されています。世界においても最も多い腎炎で、特に日本を含む東アジアに多いとされています。学校検尿や職場検尿などの機会に偶然血尿やたんぱく尿を指摘されることが多く、子供から大人まで広くみられる病気です。初めのうちは無症状ですが、進行すると腎臓の機能が低下し、高血圧の合併や腎不全に伴う症状がおこります。未治療の場合、診断されてから約20年後に約4割の方が透析や腎移植が必要な末期腎不全になってしまう病気で、わが国の「指定難病」の1つになっています。

原因について

発症原因は未だ不明です。診断には腎臓に針を刺して腎臓の組織を一部採取する「腎生検」という検査が必須で、腎臓の「糸球体※」という場所に、抗体の一種であるIgA(免疫グロブリンA)の沈着を顕微鏡で確認することが必要です。
最近の研究で、この沈着するIgAの一部に異常(糖鎖異常IgAといいます)があることがわかっています。また患者さんの血液の中にもこの糖鎖異常IgAが増えていることがわかっています。病気が起こる機序としては体内になんらかの抗原が入り、その抗原に対する抗体として糖鎖異常IgAが産生されます。そして、その糖鎖異常IgAや糖鎖異常IgAとの免疫複合体が糸球体に沈着して炎症を起こすと考えられています。原因となる抗原について完全にはわかっていませんが、一部の患者さんでは、急性扁桃炎などの上気道炎合併時に、コーラのような色の血尿(肉眼的血尿)の尿異常や腎機能の増悪を認めることから、何らかの病巣感染、特に扁桃における慢性感染の関与が示唆されています。

※糸球体とは、血液を濾過し尿のもととなるものを作る篩(ふるい)のような構造をしている毛細血管の塊です。1つの腎臓に約100万個の糸球体があるとされていますが、最近、欧米人の約90万個に対して日本人は64万個であったとの報告があります。

治療法について

治療には、腎機能、蛋白尿の程度や腎生検の結果などによって患者さんごとに異なります。食事療法としては減塩を行います。また腎機能低下を認める場合はたんぱく質制限が必要になることもあります。
薬物治療としては、アンギオテンシン転換酵素阻害薬やアンギオテンシンII受容体拮抗薬などの降圧薬や、ステロイドを含む免疫抑制薬などが用いられています。我が国では、扁桃摘出術+ステロイドパルスとの併用療法(扁摘+パルス療法)が良好な治療効果を示しています。上記で述べた病巣感染と関連した意味で、扁摘+パルス療法が根治的な治療法としてわが国では普及しており、当科でも耳鼻咽喉科・頭頸部外科の協力のもとで積極的に実施しています。扁摘+パルス療法は有効性の高い治療法で、IgA腎症が発症してから治療までの期間が短ければ短いほど効果があります。しかしながら、治療後も尿所見異常(血尿)が改善しない患者さんが一定数いらっしゃいます。そのような患者さんの中には病巣感染の部位として、扁桃とは別に上咽頭が最近注目されています。上咽頭の炎症である上咽頭炎に対しては、上咽頭塩化亜鉛擦過療法(Bスポット療法)が一定の効果があるとされており、当センターではその専門外来として腎と病巣感染外来を開設しています。耳鼻咽喉科・頭頸部外科の協力のもとで、適応となる患者さんにはBスポット療法も積極的に行っております。

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